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治療、予防医学、健康増進を考える

NPO法人 更年期と加齢のヘルスケア理事長
一般社団法人 日本サプリメント学会理事長
小山嵩夫*

はじめに

 高齢者人口の急増を控え、わが国の医療の今後の方向性に関心があつまってきている。医療費についても健康保険の分だけでも40兆円を超えており、これに介護保険の分、自費の分などを加えれば50兆円は軽く超えている。
国民のヘルスケアの観点から医療経済を含めたわが国の医療の今後の方向性について述べる。

1. わが国の医療

 わが国の医療は健康保険制度を中心に運営されており、疾患の治療、社会保障の立場からはかなりの水準といえよう。疾患に対しては検査、治療内容など細目にわたって実施基準が決められており、診断が間違っていなければ極端にいえばだれが治療を行なっても(手術などの技術差の問題は残るが)ほぼ同じ様な結果が得られるまでになっている。これだけの医療サービスが全国各地北から南まで平等に同じ料金で受けられることは社会保障としても国民に一定の範囲で大きな安心感を与えている。
 健康保険制度にどっぷり漬かっているとわかりずらいが、医療のほぼ全エネルギーが治療に向けられている不自然さに気づく人達も多いのではないかと思う。図1に示したが医学の臨床応用として治療医学、予防医療、健康増進が存在する。病気の治療はあたりまえであるが病気にならない様にする(予防)、今、別になにも健康面で困っていないがもっと若々しく元気になりたい(健康増進)と考える人達がいても当然であろう。1) わが国の健康保険制度はこの予防、健康増進の部分がほとんど抜けており国民各自の自覚、各自の責任にまかしている。医療サービスが予防、健康増進をカバーしようとすれば自己負担に頼るしかなく国民の説得が大変ということになり結局は実施しないというわが国の現状になってしまう。即ち健康保険制度に採用されないかぎりはどんな重要な価値があることでもほとんど実施されない、またその意義や価値を国民は知らないということになる。
*小山嵩夫クリニック院長

2. 高齢者のヘルスケア

 団塊の世代も60歳代後半に入りこれから高齢者の急増が予測される時代が目前に来ている。この世代の人達に対し病気になるのを待っていて治療を中心とした従来の対応でいくのは生活の質(QOL)などの面からみて非常に問題があろう。医療費も70歳代80歳代になると急増することがわかっており、国民の負担もそろそろ限界に来ているのではないかと考えられる。 2) 3)
 この問題に対する有力な対応として予防医療、健康増進が考えられる。早めにまだ故障が少ないうちに日常生活を中心とした対応(即ち本人の努力が中心となる)により未然に防いでいく考え方で多くの国民の同意が得られやすい。4) もちろん病気を発症した人達への対応は従来通り実施するわけであるが、長期的には発病者の数も減少し、いわゆる老衰で人生を全うする人が多くなろう。この方針に転換した場合医療費は大幅に減少し、医療関係者からは医療の質の低下ではないかなどの意見が出されると思うが、高齢者には重装備の医療、最先端の医療は必ずしも必要ではなく年齢にふさわしいよい意味での“ほどほどの医療”がよい場合も多い。これらの点についても医療関係者のみでなく多くの分野の人達の参加のもとに“よい医療、ヘルスケアとは何か”について検討を至急行う必要があろう。

3. 健康増進とは

 健康増進については健康保険法により医療現場での実施を禁止しているためほとんど実施されていない。また保険と自費の同時実施も混合治療の禁止により健康増進のための運動、食事の指導などは実施しずらい。
 表1にその内容を示した。基本的には運動、食事、生活のリズム、ストレス管理などであり、病人ではないので薬は原則として用いない。運動、食事への補助として漢方、サプリメントを用いる位である。検査も、病気の発見の検査の集合体であるいわゆる人間ドックとはかなり異なっており身体計測、能力、健康マーカー、加齢マーカーなどが中心となる。病気の有無をみるためにいわゆる人間ドックの項目を加えてももちろんよい。
 健康増進については人材の育成が現在のところ非常に不十分であり、この方面の充実が課題である。医療施備についてはわが国の医療機関は検査代金との関係もあり重装備の傾向であるのでほとんど現在のままで問題はないと考えられる。またこの領域の検査器具は安価のものが多く新らたに導入したとしてもほとんど病院にとっては負担にはならないと考えられる。

おわりに

 これまで述べたことについて“今後の課題”として表2にまとめた。すでに述べた様にわが国の医療は健康保険に採用されない限りは支払いが保障されないためほとんど実施されないのが現状である。予防医学、健康増進はよいことであるとわかっていても健康保険で採用するためには予算的措置をつけなければならず、現状では非常に困難である。治療にあてられている予算をカットしてその分予防医学などにまわす工夫は実施可能であるが、医療関係者などから医療の質などに影響でるので不可能といわれている。私の個人的見解ではよい意味での“ほどほどの医療”にすれば何の問題もなく実施できるのではないかと考えている。
 現在の医療保険制度がつくられた昭和30年代中頃とは現在の社会環境、人口構成、医療の技術などは大幅に変化してきており、制度が破綻する前に知恵を集めて検討する時期に入っているのではないかと思う。
 健康増進などは必ずしも医師が得意の分野とはいえずコメディカル領域の人達の大幅な協力のもと、この領域の人達の医療、ヘルスケア活動にも診療報酬などをつけることも、医師以外の人達の積極的な参加、技術力の向上などにはよいのでは考えられる。

【文献】

1 . 小山嵩夫:巻頭言、変わりつつある更年期のとらえ方 ―更年期障害から更年期以後も健康に―. 更年期と加齢のヘルスケア 14:10-12,2015
2 . 中村秀一:社会保障改革の動向とこれからの医療、平成25年度医療政策シンポジウム
“高齢社会と医療の未来を考える”発行日本医師会 平成26年7月発行 pp39-74,2014
3 . 長谷川敏彦:日本医療の経済をみる. 綜合臨床 56:3168-3175,2007
4 . 渡辺昌:統合医療学の社会での役割 新・統合医療学 監修 渡邊昌、公益社団法人
 生命科学振興会発行  pp131-139,2014

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