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ホルモン補充療法は最少用量で最短期間でなくてはならないのか

Should hormone replacement therapy be prescribed for minimum effective dosage for the shortest duration ?
Koyama Takao Clinic for Women
Takao Koyama

小山嵩夫クリニック
小山嵩夫(こやまたかお)

はじめに

 ホルモン補充療法(HRT)がわが国で広く知られる様になってから20年以上経過している。HRTの名称はよく知られてきているものの普及率はこの20年間あまり変化していない。またHRTは更年期障害の治療のみならず、骨粗鬆症、動脈硬化、物忘れ予防、さらに健康増進、アンチエイジング的な応用の可能性が大であるが、わが国では更年期障害の治療が主流である。
 この傾向をつくった大きな理由としては2002年に発表されたWomen’s Health Initiative(WHI)研究の結果1)とその後のHRTに対するガイドラインの影響が大きいであろう2)。WHI研究は無作為の大規模研究でありその結果は尊重されるべきであるが、肥満気味の高齢者(63歳からの5年間)で、生活習慣のあまりよくない人達が対象であり、発表された直後から一定の条件下でのHRTの結果であり、HRT全体をWHI報告で規制するのは問題であるとの意見もかなり存在した。
 WHI報告から10年余りが経過し臨床の現場ではいろいろな工夫、意見が出はじめており、最近の臨床研究の結果とともに自分の経験を中心にコメントしたい。

1.KEEPS の結果について

 2012年10月3日にHRTの無作為臨床試験KEEPS(Kronos Early Estrogen Prevention Study)の結果が北米閉経学会学術集会(Orlando, Florida)にて発表された。3)4)健康な閉経後3年以内(42~58歳)の女性727人に4年間経口または経皮のエストロゲンとプロゲステロンを周期的に投与したものである。結果としては更年期症状の著明な改善、認知機能、気分、性機能、脂質、糖代謝にも著明に有効であり、血圧や内頸動脈肥厚などについては影響はなかった。投与期間が4年間ということもあり、心筋梗塞、脳卒中、乳がんなどの発症率の増加などにもとくに変化はなかった。

2.HRTガイドライン見直しの動き

 KEEPSの結果は二重盲検ではあるが症例数もそれ程多いわけではなく、今後もいろいろな角度からの検討が必要であろう。但しKEEPSの様な結果は別に珍しいものではなく、WHI報告以前にはHRTについてはKEEPSの様な報告が多かったといえる。5)6)またWHI報告後もHRTを50歳代前半から開始していれば今回の様な報告はいくつもなされており7)8)、HRTガイドラインにも少しずつ取り入れられてきている。
 国際閉経学会(IMS)の機関誌Climactericで編集長のDr N Panay らはヨーロッパの医学会、米国のFDAなどもこれまでのこれらのデータを考慮してHRTの指針を新しい方向に改訂していくべきとコメントしている9)。とくに50歳前後など最適な時期にHRTを開始した場合には骨粗鬆症予防のみならず心臓血管系への好影響も判明しており、HRTを最少必要量、最短期間などの厳しすぎるガイドラインは速やかに改定すべきとしている。

3.臨床の現場では

 当クリニックの外来で最近気づいた事について少しコメントしたい。ここ1~2年これまでHRTを処方してもらっていた医師から学会のガイドラインにより“もうHRTは中止すべきだ”といわれて当院を受診する患者さんをしばしばみかける様になった。私の方針では患者さんにHRT継続の意志があり、HRTについて十分理解しており、かつ当科できちんと定期的な検査を受けることを了解してもらえれば、とくに問題化するわけでもなく普通にHRTを実施している。この方針はWHI報告当時から同じであり、HRTの投与量、投与期間についても目的に最適な量、期間を選択しており基本的にはWHI報告以前と以後とではそれ程変化しているわけではない。
 この方針でWHI報告でいわれている様な副作用が増加したかというとその様な症例にはほとんど遭遇しなかったのが現実である。確かに乳がんは日本人の疫学的なデータ位(年間に1000に1人位)は発見される。脳卒中、血栓症にいたってはわが国ではHRTの適応が厳しいせいもあろうがまったくといってよい程遭遇しなかった。確かに脳卒中、血栓症が発症しやすい様な症例、即ち肥満、高血圧、喫煙など生活習慣があまりよくない人、糖尿病、70歳以上などの条件をいくつも持っている人達にHRTはほとんど処方しないこともその大きな理由であろう。
 HRTを5年で中止した場合、健康維持目的、アンチエイジング目的で服用していた場合は気分、身体的活動性の低下する症例が多い。また骨密度、細胞内水分量、骨格筋量などの予防医学的なデータも減少するため、この様なケースについては本人の希望がない限りは中断をすすめてはいない。

おわりに

 わが国のHRT普及率は2%前後といわれ、ほとんど普及していない現実がある。WHI報告はわが国の団塊の世代の女性からHRTを遠ざけたといわれており、その傾向は現在も続いている。
 最近は早いうちから健康増進をはかり、更年期およびそれ以後も元気にすごそうという人達も増えており、生活習慣がその対策の最重要項目ではあるが、HRTもかなりの貢献が期待されている。HRTの正しい理解者が国民、医療関係者にもっと増加し、国民の健康増進、わが国の医療経済への貢献がこれからはHRTにも期待されよう。10)

文献

1)Writing Group for the Women’s Health Initiative Investigators. Risks and benefits of estrogen plus progestin in healthy postmenopausal women: principal results from Women’s Health Initiative randomized controlled trail. JAMA 288:321-33,2002
2)The North American Menopause Society: Position Statement, Estrogen and progestogen use in postmenopausal women. Menopause17: 242-255,2010
3)Harman SM, Brinton EA, Cedars M, et al. KEEPS: The Kronos Early Estrogen Prevention Study. Climacteric 8:3-12,2005
4)Kronos Longevity Research Institute. Hormone therapy has many favorate effects in newly menopausal women: initial findings of the Kronos Early Estrogen Prevention Study (KEEPS)〔press release〕. October 3, 2012.
http://www.menopause.org/docs/agm/general-release.pdf?sfvrsn=0
5)The Writing Group for the PEPI Trial. Effects of estrogen or estrogen/progestin regiments on heart disease risk factors in postmenopausal women. The Postmenopausal Estrogen/Progestin Interventions(PEPI)Trial. JAMA 273: 199-208,1995
6)Stampfer MJ,Colditz GA,Willett WC, Manson JE, Rosner B, Speizer FE, Hennekens CH. Postmenopausal estrogen therapy and cardiovascular disease. Ten-year follow-up from the nurse’s health study. N Engl J Med 325:756-762,1991
7)Writing Group for the Women’s Healh Initiative Investigators. Conjugated equine estrogens and coronary heart disease. Arch Intern Med 166:357-365,2006
8)Rossouw JE, Prentice RL, Manson JE, Wu L, Barad D, Barnebei VM, Ko M, LaCroix AZ, Margolis KL, Stefanick ML. Postmenopausal hormone therapy and risk of cardiovascular disease by age and years since menopause. JAMA 297:1465-1477,2007
9)Panay N, Fenton A: Editorial, Good news for HRT – what next ?
Climacteric15: 511-512,2012
10)Sturdee DW, Pines A et al: Updated IMS recommendations on postmenopausal hormone therapy and preventive strategies for midlife health. Climacteric14: 302-320,2011

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