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更年期からのヘルスケア ― 健康管理、健康増進について ―

小山嵩夫 更年期と加齢のヘルスケア Vol.11 pp9-13 2012

更年期と加齢のヘルスケア学会理事長、小山嵩夫クリニック院長
小山嵩夫(こやま たかお)

はじめに

 高齢社会を迎え、生涯自分のことは自分で行ない、他人の助けをかりなくても行なうことができることを希望する人達は増加しており、健康管理、健康増進に関心をもっている国民は多い。しかしこの要望を十分に受けとめることの出来る医療施設はわが国ではほとんど存在しておらず、この領域への対応は医学の進歩があったにもかかわらずほとんど恩恵を受けていない。(1)(2)
 このテーマについてわが国の現状、問題点、今後の方向性について述べたい。

1.ヘルスケアとは

 健康を維持し、そのための対策を工夫していくことであり、基本的には現在社会的に十分活動している人達への対策である。対応としては日常生活の分析、健康度の分析などを行ない、運動食事、生活環境などを含めた日常生活の改善で対策を立てていくことが考えられる。健康度の分析としては運動機能、体組成分の分析、全身的なスクリーニングとしての血液検査などが考えられる。
 日常生活の分析、健康度の分析は健康の状態、即ち現状の分析を忠実に行なうことが重要であり、病気の初期発見、初期治療を中心とした分析ではない。分析項目も発病直前に焦点を当てた項目ではなく、健康な時、即ち発病5年、10年前に焦点を当てた検査項目を選ぶことが肝要である。

2.わが国の現状と問題点

 わが国の医療施設は99%以上が病気の治療を目的として設立されているため、ヘルスケアに関しては経験が少なく、満足すべき対応をしている施設は非常に少ない。(3)例えば現在50歳で日常生活もとくに困っておらず、一般の検査でもとくに問題点がない女性が大規模総合病院又は、掛かり付けのクリニックなどを受診して"現在とくに困っていないが、生涯自立して健康にすごしたいので対策を宜しくお願いします"と依頼した場合を考えてみたい。忙しい大学病院ではまず相手にされず、"調子が悪くなったら来院して下さい"といわれるか、外来医が勘違いしていわゆる人間ドックをさらに詳しくした検査(MRやPET、各種がんマーカー、各種内視鏡などを含めたコース)をすすめる位であろう。人間ドックを詳しくした検査は病気の発見のための検査でありこの女性の様に健康増進目的(一次予防)の場合は無駄とはいわないまでもほとんど必要のないものであろう。
 この様なケースはわが国で考えられる一般的な対応である。わが国の医療施設はほとんどが疾患の治療を目的とした健康保険制度のもとで運営されており、健康管理、健康増進は制度の枠外、即ち健康保険による給付の対象外になっている。従ってこの領域は制度下で運営している限りは実施できないし、実施してはいけないことになる。人間ドックなどの検診業務は制度を離れて自費で運営されているがこの内容もほとんどが病気の発見に主力が注がれており、異常がみつかれば直ちに健康保険の適応が受けられる疾患の治療の範疇のものが多い。即ち前章で述べた発病5年、10年前の項目はそれ程多いといえない。健康な50歳代女性でいえば簡単な項目ではあるが、体成分分析で細胞内水分量の変化、蛋白質量、骨格筋量などの推移などは加齢との関係もあり、PETや各種がんマーカーよりも重要な情報をもたらしてくれる。しかしデータが変化しても、直ちに治療に結びつくわけではなく、また検査そのものが医療保険の対象外であるものが多いため、これらのデータに関心をもっている経験豊富な医療関係者は少ない。わが国では北海道から沖縄まで人間ドックなどの項目はほとんど同じ傾向であるが、健康増進を目的とした検査項目を組合せた場合はその内容は大きく変化する。しかしこの変化に対応した医療従事者の訓練などはわが国ではほとんどされておらず、国民の理解、医療保険制度、医療従事者の教育などこれからの課題は多い。

3.予防医学(健康増進も含む)の領域

 医学には基礎医学、臨床医学があり、臨床医学の領域には治療医学のほかに予防医学(健康増進も含む)がある。昭和30年代に現在の健康保険制度が実施され、50年余りが経過している。昭和30年代の医療水準では、まず保険制度を実行に移すこと、内容としては現在困っている症状疾患の治療を行なうことに主眼が置かれていた。現在のように女性の平均寿命が80歳代後半になり、生活習慣病を中心とした高齢者医療で医療保険の予算の半分以上が使われる時代などは予測もされてはいなかった。昭和30年代当時の目的である、働く世代の目の前の疾患の治療を中心とした現在の医療保険制度を生活習慣病を中心とした高齢者医療に適応させるには根本的な改革が必要であり、効率かつ適正な医療を実施するためには予防医療の考え方を制度内に取り入れることが必要である。
 わが国の戦後の特徴ともいえるが、医療制度も大きな改革を実行することなく小さな変更と拡大解釈でこの50年余りを運営してきているが、制度的な疲労が認められている。健康保険制度に固執するあまり、わが国の医療関係者、国民の間に健康保険に認められていればよい内容であり、採用されていないことはする必要がない、注意を払う必要がない、とまで考える人達も多い。今回のテーマであるヘルスケア、健康増進もこの領域、即ち保険の適応外であり、極論すれば、する必要のない医学と考えられている面もある。総論的にはヘルスケア、健康増進は重要であることはすぐ理解できるが、医療関係者は実施しても支払基金より支払ってもらえない、国民側からは保険が効かないのなら受けたくないということにもなり、現行の医療保険制度が非常なブレーキとなっているのは容易に理解できる。
 20世紀中頃から21世紀初めはわが国において治療医学全盛の時代であり、治療医学と同等位の位置付けにある予防医学は非常に過小評価された時代であったと後世から指摘されるかも知れない。ただ最近この傾向に修正する動きがみられる様になってきている。例えば臓別医療から全身を診る医療、検査偏重から患者を直接診る医療、コンピューターとの交流から患者との対話へなど、変化の兆しが認められる。(4) しかし、予防医学を大幅に採用するためには小規模な改革では追いつかない為、大幅な制度の改革は避けて通れない。

4.今後の課題

 50歳の健康な女性について考えてみたい。現状では年に1回の検診といわゆる健康によいといわれている運動習慣、食事療法(サプリメントも含む)などをその女性の独自の判断で行ない、病気になるのを待っている状態で人生後半をすごしていくと考えられる。年に1回の検診では異常が発見されると(例 高LDL-コレステロール、高血圧症、糖尿病傾向、γGTP高値、動脈硬化症、血流障害、関節痛など)その項目の治療を行ない、治療と全身的な関連の評価などはあまり考えずに、目前の疾患、症状の除去に専念する。健康な体をつくっていく一時予防と疾患予備群又は疾患の初期は生活習慣を中心に対応していく二次予防の概念の臨床への導入が不十分といえる。
 ここへヘルスケアの概念を導入すると正確な生活習慣(運動、食事、生活リズムなど)や環境(人間関係、職場環境など)の評価を行ない、まず生活習慣、環境などの見直しから入る。例えば起床時血圧が160/95位であったとすると、内科外来では降圧剤をすぐ処方されることも多い。服薬に抵抗すると、心臓や脳に血栓ができると困るでしょうといわれ、服薬している女性も多い。この様な場合、まず血圧の測定も起床時1~2分安静後、就寝前1~2分安静後に測定、その平均値を採用しているかなどを確認する。混雑した内科外来の測定では不正確なことが多い。塩分は注意しているか、太りすぎの人は体重に注意しているか、無理な生活習慣などはないかなどに配慮すると、降圧剤などを服用しなくとも血圧はコントロールされる場合も多い。また更年期世代の女性であれば更年期障害などの治療により血圧は安定に向かうことも多い。(5)
 ヘルスケアの概念の導入は簡単そうであるが実行はなかなか難しい。まず生活習慣、環境の分析は時間もかかり患者側の協力も必須である。原因を探り、原因に基づいた対策を、生活習慣を中心に採用するのは時間がかかり効果も即効的ではない為、根気とともに患者と医療者側の信頼関係も必要である。これらの要因もあり、結局原因と関係なく降圧剤を処方し薬物による外来通院による方法をほとんどの医療機関が採用している。費用の面でみると原因を探り、生活習慣の改善から入る面は指導料は入るものの薬物投与に比べ医療費の売上は非常に低く、費やす時間は数倍から10倍以上もかかるため、医療経営的にはまず採用されない。
 身近な例を述べたが、今後の課題をあげてみたい。1)予防医学(健康増進など)の重要性を国民が認識すること2)医療関係者は予防医学についての最新の医学内容を取得し、実地臨床で応用できる様にする3)国民は健康保険制度内のものが医療のすべてではなく、制度外のものにも関心をもつ4)国民は医療および医療保険制度に関心をもち、すべて国や専門家におまかせにしないこと5)この領域におけるいわゆる識者のコメントにはその所属する団体に関係した背景があることが多く、一部の参考意見として聞く6)既成の制度に固執することなく必要があれば改革することも大切などがあげられる。

5. おわりに

 わが国では治療医学偏重の時代が続いており、予防医学が過小評価されている。この状態に気づいている人達もいると思われるが、医療保険制度が極端な治療医学偏重であるため、制度下で仕事をしている限りは仕方がないと思っている人達も多い。しかし圧倒的多くの国民、医療関係者はこの状態をとくに意識することもなく無関心にすごしているのではないかと思う。医療制度に関する討論でもそのほとんどは現行の医療保険制度の枠内で費用の分担、支出内容、医療の内容(質)などがテーマであり、ほとんどが治療医学の領域で行なわれている。(6)(7)自治体や職場検診などで実施されている生活習慣病検診、がん検診は疾患の早期発見であり予防医学の一部といえなくはないが、健康増進などの基本的概念とはかなり離れたところにいる。
 総論的には予防医学の実践には賛同する人々は多いが、各論の部分(即ち費用の分担、その内容など)で医療業界などを中心として現行制度の改革には反対の人達は多い。しかし、予防医学の積極的な導入は国民個人個人、社会の活性化、国家の財政面などからはプラスの面が多いことも予測される。高齢社会を迎え、ここ30~40年で大きな変化が予測されるわが国においてこの領域への意思の統一は急務と思われる。

【文献】

1. 小山嵩夫:更年期からのヘルスケアと更年期医療,更年期と加齢のヘルスケア  9:9-12,2010
2. 日本更年期医学会:日本の医療制度と更年期医療,更年期医療ガイドブック pp 346-349,
日本更年期医学会編2008,金原出版(東京)
3. 小山嵩夫:中高年女性のニーズからみた婦人科医療のあり方,産婦治療 98:932-935,2009
4. 田中秀一:医療危機を乗り越えるために ―改革はどうあるべきか―,平成22年度医療政策シンポジウム"国民皆保険50周年~その未来に向けて" pp43-54,2011年5月,日本医師会
5.小山嵩夫:更年期障害への多剤投与を考える,更年期と加齢のヘルスケア 6:274-276,2007
6.仁木立:日本の医療制度改革 ―危機から希望へ―,綜合臨床 56:3155-3157,2007
7.福原俊一:来るべき医学・医療のパラダイムシフトに向けて―日本医師会への提言―,日本医師会雑誌 131:741-751,2004

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