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更年期情報
NPOとしての健康食品(サプリメント)評価の試み
更年期と加齢のヘルスケア学会 理事長、小山嵩夫クリニック院長
小山 嵩夫(こやま たかお)
はじめに
健康食品(サプリメント)は最近、健康維持、増進に関心があつまってきたこともあり、わが国において着実に普及しはじめている。制度上は食品に分類されており効能、効果を示すことは薬事法で規制されている。但し栄養機能食品に指定された場合は定められた栄養成分の機能のみ、また特定保健用食品に指定された場合は薬事法に触れない範囲でサプリメント成分の効果の表示が認められており、そのためのデータや安全性が要求されている。口に入れることができるものは健康増進法で規制されている食品と薬事法下の医薬品がある。食品には一般食品(いわゆる健康食品)と保健機能食品(栄養機能食品と特定保健用食品がある)があり狭義では保健機能食品のみをサプリメントとする場合もあるが、一般的には健康食品も含めてサプリメントと呼んでいる場合も多い。
サプリメントは米国ではビタミン、ミネラル、ハーブ、アミノ酸などであり、通常の食事を補うためのあらゆる製品と定義(栄養補助食品健康教育法、1994年)されており、わが国でもほぼ同様と考えられている。
健康食品(保健機能食品を除く)はわが国で効果について、制度上データがほとんど要求されていないこともあり、非常にあやふやなままで用いられていることも多い。ヘルスケアのために健康食品を用いることはよいとして、これらについての正しい情報とそのためのデータを提供していくことは当学会の1つの役割と考えられる。
1. 健康食品(サプリメント)の歴史
食はわが国において経験的に重要視されていたが、1988年から12年間文部省により“食品の生体調節機能の解析”のプロジェクトが実施され科学的な検討がはじまった。食品には栄養性、味覚を満足させる、生体調節機能があることが認識され、また疾患の予防、アンチエイジングなどを目的として機能性食品の概念が提唱される様になった。機能性食品は免疫能、抗酸化、酵素系、遺伝子修復などへの有効性が示唆されている。1)2001年4月に厚生労働省により健康増進法のなかで“保健機能食品制度”が制定され、病気の予防目的で特定保健用食品が定義された。健康食品は食品衛生法によってのみ規制されており、機能表示の面などで特定保健用食品とは異なり効果について表示ができない。
栄養機能食品は栄養素の補給が目的でありビタミン12種類とミネラル5種類がこれに相当する。このビタミンとミネラルに関しては基準の成分を満たしていれば、国の審査がなくても栄養機能食品と表示できる。従って個々のビタミン、ミネラルは含まれていたとしても製品全体としての有効性や安全性が保証されているわけではない。
2. 健康食品(サプリメント)の役割
最近高齢社会を迎えて、病気の治療のほかに、いつまでも元気に生き生きと、臓器のみでなく全身をみることも大切などの概念が普及しつつある。狭い意味での医療は疾患の治療であるのでこの概念は主力とはならないが、予防、健康管理の重要性は国民の間でも、徐々に認識されてきている。
西洋医学については世界の中心的存在であった米国においても、2000年頃より補完代替医療が注目されはじめ、2009年2月の米国上院健康教育労働年金委員会の提言として、これからの医療は従来の投薬、手術、処置などのほかに、こころ、食事(栄養)などを重視した統合医療的な手段の重要性を指摘している。2)
わが国においてはほとんどすべての医療機関が健康保険制度のもとで運営されており、この制度が予防医療を禁じている関係上、医療保険制度内での運用は困難なことも多い。しかし医学的に健康維持、予防医学の実践は重要なことであり、少しずつではあるがこの概念が国民の間に広く普及させる努力を継続していくことは重要である。
3. 今後の展望
医療ではその対応は基本として投薬、処置、手術が中心であり病人の社会復帰を目的としている。しかしすでに述べた様にいつまでも元気にと願う人達は急速に増加してきており、その対応は投薬による病気の初期治療ではない。更年期世代はいわゆる人間ドック的な検査では脂質異常や骨量減少はよくみられるが、治療が必要な重大な臓器の疾患が認められることはそれ程多いわけではない。現在の細胞の活発さなどをいつまでも維持したいなどの予防医学的対応の方がむしろ要求されていよう。細胞の活発さなど抗加齢的な内容の場合は運動、食事などの対応については当然であるが、その有力な手段となっている健康食品(サプリメント)、漢方を適切に用いることも重要である。
わが国では健康食品(サプリメント)が知られるためには一般に新聞、雑誌、テレビなどの広告によることが多く、広告効果の高いものがよく用いられている傾向がある。やはり有効性に基づいて用いられるのが基本であり、その方向に誘導していくことがサプリメントの信頼性を高めることにつながる。3)
4. NPOに期待されていることは
これまで述べたことについて国民に啓発をしていくことは大切であるが、問題解決に向けて行動を起こすことも重要な1歩といえる。具体的には現在広く用いられている健康食品(サプリメント)について、NPOによる独自の評価システムにより効果、安全性についてデータを蓄積し、その結果を公表していくことも健康食品(サプリメント)の正しい評価につながる。この評価の試みがサプリメントメーカーとは独立した立場から実施されることも重要である。
NPO法人更年期と加齢のヘルスケアには約250名のメノポーズカウンセラーが認定されており、このカウンセラーを中心としてこの評価の試みに参加し、それとともに正しい健康食品(サプリメント)についての認識を集積し、それを国民に伝えていくこともメノポーズカウンセラーに期待されていることであろう。
5. おわりに
わが国の健康食品(サプリメント)を取りまく環境は全体としては前向きといえるが、すでに述べた様に多くの問題点をかかえている。前向きの要因としては国民の健康指向、自然のものであるので薬物に比べ副作用が少ない、入手しやすいなどの点がある。問題点としては医学会の関心が医療保険制度との関連もあり治療中心であり予防にはあまりふりむけられていない、食品に分類されているため効果安全性などについてのデータが非常に不十分ではあり、また臨床効果の判定に医薬品なみの厳格さが求められており、臨床試験が実施しづらいなどがある。しかし全体としては前向きの力の方が強く感じられるのは国民が元気で生き生きとした生活をすごしたい、生涯自分のことは自分でできる様にするためには早くから予防をしておきたい、などの需要が広く根底にあるからと思われる。
今回の健康食品(サプリメント)についての公平なデータを、科学的に評価し集積していこうとするNPOの試みが、健康食品(サプリメント)の信頼性を高め正当に評価されていくきっかけになることを期待している。
【文献】
1. 坪田一男,渡邊昌,大澤俊彦:健康機能食品を科学する.日本抗加齢医学会雑誌 4:14-20,2008
2. 安西英雄:米国の統合医療の現段階.日本補完代替医療学会誌 8:37-42,2011
3. 卓興鋼,梅垣敬三,渡邊昌:国内における健康機能食品の現状と動向.日本抗加齢医学会雑誌 4:21-29,2008