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更年期からのヘルスケアと更年期医療
小山嵩夫 更年期と加齢のヘルスケアVol.9 pp9-12 2010
■ はじめに
最近女性医療、女性の生涯にかけての健康管理、女性のQOLの向上、予防医療などの言葉をよく聞く。この領域に関心があつまってきている証拠だと思うが、本日のテーマである更年期からのヘルスケアもこの範疇に入る。これからの医学の流れであるとともに、現行の医療保険制度で実施しづらい、はみだしている領域ともいえる。(1)(2)(3)
更年期といえば更年期障害を思い浮べる人が多く、何となくわけがわからなく、あまり好ましい話題とは考えていないのが一般的であろう。更年期障害はよく知られたテーマではあるが、更年期の一部のテーマであり、この領域の主役をあげるとすれば、更年期からの健康管理、即ち生涯元気で生きるための工夫を考えることではないかと思う。(4)
更年期からの健康管理は、わが国ではこの様にテーマであげることは容易であるが、医療の現場ではあまり実施されていないのもよく知られている。その理由としては、あまり関心がない、教育や人材面での不十分、医療保険制度の問題などをあげることができよう。これらの問題について現状を分析し、今後の方向性について述べる。
1.更年期からのヘルスケアとは
更年期からのヘルスケアの目的は生きている限りは自立して生活を楽しむことのできる健康を維持する工夫をすることであり、疾患の治療とは明確に異っている。
実行すべきことは5年、10年単位の長期的な視野にたった健康面からの分析であり、主な対応はそれらのデータに基づいた生活習慣の指導やカウンセリングといえよう。(5)現状分析から疾患が発見されれば、治療にすすむわけであるが、ヘルスケアは疾患の予防が本来の目的であるため、投薬、検査など通院が必要な場合は更年期医療の領域といえる。
更年期は卵巣機能の低下、停止を伴うため年齢的には閉経前後からであるが、低下が認められはじめる40歳前半からヘルスケアを念頭に置くことがよいであろう。いつまでかについては50歳代終りまでが一般的な受けとめ方であるが、最大限65歳までと考えてよい。予防医学を実施するとしたら65歳以前が妥当であろうし、65歳以降は老年期の健康管理の範疇ともいえ、目的内容も異ってくる。
検査、投薬、処置などは医療であり、経過をみるために月に1~2回位は通院する。ヘルスケアでは通院は非常に少なく年に数回位であり、薬物を用いる場合でもホルモン補充療法、漢方薬、サプリメントなどが中心となろう。
ヘルスケアは具体的には運動機能の維持、心肺機能の維持、骨量減少予防、動脈硬化予防、脳神経系の機能低下予防などであり、生涯にかけてのQOLの維持、向上である。
これらのことは予防医学であるため疾患の治療を目的とした現行の医療保険制度内での実施はかなり困難であるため、疾患の初期治療に関連づけて行なっていることも多い。人間ドックとして実施されている部分もあるが、とくに更年期を念頭においているわけではないのでやはり不十分といえる。
更年期から老年期にかけての健康面からの医学知識、技術がかなり備わっている現状を考えると、主役の1つとして予防医学を認識し、医療制度面を改革し、どこの医療施設でも予防医療を実施できる様な工夫がこれからの時代は望まれる。
2.更年期医療とは
現在わが国の臨床の現場で最もよく行なわれているのが更年期医療であろう。即ち更年期女性の疾患に対する診断と治療であり、更年期障害が代表といえる。わが国の医療現場でよくみられる、更年期女性の不定愁訴を臓器別に対応した医療はすべてこの範囲ともいえる。動悸があるので心臓の検査をして不整脈や血圧の薬、めまいに対して平衡神経等の検査後めまいの薬、胃のもたれ感、胸やけなどに対して胃カメラ後に潰瘍剤、皮膚の痒みに対してアレルギーの検査後抗アレルギー剤、頭痛、頭重感に対し脳MR後に脳血流改善剤などの治療は代表的なものである。
この様な医療はわが国においては一般的なものであるが、原因が更年期であった場合はこれらの対応は対症療法の範疇に入り有効性は低い。症状に対しては常にその原因を考え、その原因に対する医療が実施できる医療環境を整備することが重要である。即ち十分に話を聞くことができること、長期的な視点からの医療ができることなどが直ちに改善したい点ともいえよう。
更年期障害はその背景に卵巣機能の停止による女性ホルモンの低下があることは忘れてはならない。臓器の疾患が50歳前後の女性に出現した様な対応がとられていることが多いが、原因治療とはいえず改善すべき点は多い。また更年期障害の原因の1つに人間関係、生活習慣などによる環境要因があげられているが、この点については聞き取りが中心であり、現行の医療保険制度では最も不得手である領域であることも知っておく必要があろう。
3.医療保険制度で可能なことは
更年期からのヘルスケアは主体が予防医学、また更年期障害は臓器別疾患ではないことに特色があるため医療保険制度内で実施可能なことはある程度限られている。ポイントとしては症状に対して可能な限り原因と思われることを聞き取りにより推察することと、訴えている症状が臓器による疾患ではないことを確認することであろう。
更年期からのヘルスケアに関しては自治体検診、職場の年に1回位の検診は費用に限りがあることと臓器の疾患の発見にポイントが置かれているため、現状の把握と長期的な健康管理への応用は困難を伴うことが多い。生活習慣の分析、環境についての聞き取り、骨量検査、動脈硬化の程度、代謝マーカー(加齢度)、卵巣機能の推定、一般的な血液検査(肝機能、コレステロールなど)、一般的ながん検診(乳がん、子宮がんなど)などであるが、普通の検診は一般的な血液検査、がん検診が主体であり、ヘルスケアの視点からは必要な項目の半分も満たしていないといえる。
4.この領域でこれから期待されていることは
期待されていることはすでに述べてきたがまとめてみたい。まずわが国の医療施設は99%以上が現行の健康保険制度のもとに運用されているためこの制度のもとでの医療を前提として述べる。
更年期医療という言葉はよく聞かれるが、まさに医療即ち疾患の治療であって、予防は基本的には含まれていないことを認識することが大切である。更年期に関しては長期的な健康管理、予防医学的な内容も大きな柱の1つでありこれを実施することは必須である。
更年期医療に関してもわが国の主流は、臓器の疾患がたまたま50歳前後の女性に出現している、との概念で実施している医療機関が圧倒的に多い。更年期障害は臓器の疾患ではなく、エストロゲン低下にもとづく不定愁訴の集合体であることを理解することが重要である。また原因がエストロゲン低下のみでなく、環境、気質などにもあるかどうかは聞き取りが必須である。また、更年期の諸症状は臓器毎にとらえるよりも全身的に把握していくことが基本といえる。
更年期のみではないが、これからは医療のみでなく、予防(即ちヘルスケア)も重要であり、予防も実施されれば国民の健康に関する質の向上、医療経済への貢献などが期待できることを国民に知ってもらうことが大切である。(6)
多くの人達の理解がすすめば、医療制度の改革、医療関係者の教育などの面でも大きな成果が得られるであろう。
■ おわりに
本論文で、更年期からのヘルスケアが更年期医療のなかでは基本的に抜け落ちていることを知ってもらえたと思っている。本学会は基本的に“更年期からのヘルスケア”が対象であり、日本更年期医学会をはじめとした医師等の学会は基本的には“更年期医療”が中心であることは現状からも理解されよう。
更年期医学(ヘルスケアも含む)は医療制度上実施しづらい、対症療法の集積と比べ、カウンセリングを中心とした全身からみる対応では医療経済的にマイナスが大きいなどは、常日頃医療関係者からよく聞いていることではある。しかしこの領域に関心があつまりはじめてから20年以上が経過しており、更年期からのヘルスケア、全身をみる医療へもシフトすることを考えてもよい時期ではないかと思う。
【文献】
1)日本更年期医学会:これからの更年期医療,更年期医療ガイドブック pp351-355,
日本更年期医学会編 2008,金原出版(東京)
2)麻生武志:中高年女性医療の現状と将来,産婦治療98:923-931,2009
3)小山嵩夫:中高年女性のニーズからみた婦人科医療のあり方,産婦治療98:932-935,2009
4)小山嵩夫:メノポーズカウンセラーと更年期からのヘルスケア,更年期と加齢のヘルスケア8:9-11,2009
5)Notelovitz M:Integrated adult women’s medicine:A model for Women’s Healthcare Centers.
Treatment of the postmenopausal women. Edited Lobo RA, Lippincott Williams J Wilkins,Philadelphia PA USA,pp621-628,1999
6)日本更年期医学会:日本の医療制度と更年期医療,更年期医療ガイドブック,pp346-349,日本更年期医学会編2008,金原出版(東京)