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これからの更年期と加齢のヘルスケア

Health Care for Menopause and Aging in Japan-Present and Future-
小山嵩夫 更年期と加齢のヘルスケアVol.5 pp5-9 2006

2002年4月、更年期と加齢のヘルスケア研究会として発足し、2006年2月NPO法人更年期と加齢のヘルスケアとして承認され、活動範囲が自分達の勉強だけでなく、国民の健康的な生活への貢献と広がってきた。ここで、これまでの活動の整理とそれに基づいた今後の方針などについて述べてみたい。

■ 高齢社会

 団塊の世代も還暦を迎えようとしており、わが国の高齢社会もますます本格化しつつある。しかし、出生数は減少しつづけており、現在でも十分とはいえない高齢者への適切な介護はますます期待しづらい状況になってきている。更年期と加齢のヘルスケアは、この様な状況の中から必然的に生まれてきたものといえるが、更年期およびそれ以後を健康的に乗り切ることによって当人および周囲の人達の生活の質(QOL)の向上を目指している。

■ 現在の医療制度と医療の内容

 現在のわが国の医療は病人の治療が中心で、予防医学、QOLの向上を目指したヘルスケア的な内容に乏しい。予防医学的なことは自治体検診が担っている部分もあるが、単なる正常か異常かみているだけで、総合的なヘルスケアには程遠い現実がある。総合的なドックにしても、臓器別的な解説ではなく、これらのデータを総合的に捉えて、長期的な健康の指針を個人個人に助言できることが望ましい。
 湿疹、動悸、うつ気分、めまいなどでもその領域の検査を行い、かなりの量の薬を服用していることは珍しくはない。更年期女性の場合は、この様な症状は更年期症状であることが多く、対症療法をいくら積み重ねても、効果ははかばかしくはなく、通院がだらだらと続いてしまうのが一般的である。この様な現実は、患者本人、国民経済からみて無駄な労力(負担)といえる。真に必要なものは何かを伝える役割が本会会員に期待されている。
 この原稿を書いている時も富山県射水市民病院で5年間で7人の患者の呼吸器を外したことが騒がれている。殺人事件、安楽死である、病院内の内紛、末期医療と医療経済などいろいろな角度から論争が起きているが、結局いつもの様に外科部長の個人的な問題として決着するであろう。重要な問題、例えば安楽死、尊厳死、末期医療などをどの様に考え、どのようにして方針を決めていくのか、また経済的な面など少しも討論されず、すべて先送りとなるのが常である。更年期と加齢のヘルスケアからみると問題は少し大きすぎると思われるが、この様な点についてもこれからは議論に参加していくことがNPO法人としての役目である。

■ 健康情報

 高齢社会、健康志向とともに非常に多くの健康情報があふれている。とくにサプリメントなどは、宣伝か正確な情報か判断できない程である。
 米国の国立のサプリメントに関する情報提供機関(Natural Medicines Comprehensive Database)をインターネットで検索すると、例えば、クロレラ、アロエ、プルーン、アガリスク、メシマコブ、ローヤルゼリー、プロポリスなどの効果については不明であると記されている。いずれもわが国で多く用いられているものであるが、現在のところ医学的には不明ということである。もちろんこのdatabaseがすべてではないので、有効性については結論は出せないが、この領域は不明なことが非常に多いことは知っておくべきである。
 太極拳、ヨガ、カイロプラクティックなども正確な医学情報が少ない領域である。いわゆる経験医学で効果が個々の症例毎に記されている健康法であり、現代医学による評価もこれからであろう。
 こうしたサプリメント、様々の健康法に関してこれまで判明している正確な情報、知識をわかりやすく提供することは重要である。また一歩進んで、効果を判定する為のプログラムを企画し、サプリメントなどの提供の会社、服用者、実施するクリニックなどの斡旋を行い、新たなevidenceを提供することも、当NPO法人の仕事として、これからは視野に入れてよいであろう。

■ ヘルスケアの現場におけるコミュニケーション、カウンセリングの重要性

 昭和30年代中頃から実施されているわが国の医療保険制度はだれでも病院に行きやすくし、全国で平均した医療サービスをそれ程の経済的負担なしで受けられる様にした。男女とも世界最高の長寿にめぐまれたことはその成果であろう。しかし反面、大病院などでは3時間待ちの3分診療などの現実を作り出し、問題点も多い。
 現代医療は検査、投薬、手術などは比較的効率よく実施できる様になったが、人間同士のふれあい、いわゆる気分的な症状の治療はおきざりにされてきている。精神神経科系の薬剤があると指摘されるかもしれないが、それはあくまで精神病理的な疾患の場合に有効であり、人間関係のストレスなどによりもたらされた症状の場合は、極端に言えばそれらは単に対症療法にすぎないとも言える。
 医療は結局、人間が人間を治療するようなところもあり、気分的な症状の場合はとくにその傾向は強い。医療の現場での人間同志の触れ合いの少なくなってきているわが国の医療では、この人間同志の触れ合いの点で、本研究会員の活躍の場がこれから増加する可能性が存在する。病人又は介護される人達にとって、すばらしい手術、薬にも勝るとも劣らない位、人からの心こもった援助、いたわりは価値あるものである。

■ 検査、手術、投薬中心の医療を考える

 すでに何度も触れているが、検査、投薬中心の出来高制のわが国の医療制度を根底から考え直す時期が来ていると思われる。医療報酬が実施した検査、投薬に対して支払われ、よい結果を得ることまでは要求されていない為、数分の問診後、非常に簡単にその領域の検査が行なわれ、対症療法的な投薬がなされる。診断がはっきりしないうちに投薬がされることは症状を隠してしまったり、診断が間違っていた場合は有害とも言えるが、これらのことに関してはあまり関心が払われていない。健康保険制度の普及により、非常に簡単に医療機関にかかれるため、診療側、患者側両者に真剣勝負的な面がほとんどなく、あまりにも気軽であることも一因であろう。
 更年期にはほてり、発汗、めまいなどとともに、うつ気分も非常によくみられる。更年期のうつ症状は特別な原因がない限りは、適切な対応により、3~6ヶ月間位で軽快に向かうものである。
 ここでいう特別な原因とは、例えば、夫、姑、子供などとの確執などは代表的なものであるが、精神神経科の薬の長期服用もここに入る。更年期のうつ症状であるため、基本的な治療は更年期障害の治療であるが、うつ病の治療薬を服用しているため、症状の改善がはかばかしくなく、治療は年単位に長引くのが普通である。2~3年とうつ病の薬を服用している場合は、薬剤に依存しており、薬の中断に半年から1年位かかり、その後に更年期の治療となるため、長期化する。
 更年期のうつ症状の場合はカウンセリングにより原因を探り、薬物治療を行なう場合はまず、ホルモン補充療法(HRT)、漢方薬であり、向精神薬はカウンセリングやHRTでどうにも対応できないときに補助的に用いるのが原則である。しかし内科、精神科で簡単に精神安定剤、抗うつ剤などが処方されるため、最初から精神科系の薬剤を用いている場合が圧倒的に多い。精神科領域では更年期うつ症状を認める医師はそれ程多くはなく、うつ病がたまたま更年期に発症したとしているため、この様な現実があるのであろう。
 更年期の不定愁訴がある場合、頭痛、めまい、動悸、うつ気分、湿疹、腰痛、胃のもたれ感などで内科、耳鼻科、心療内科、整形外科、など数科をかけ持ちしている患者も多い。各々の科で2~3剤ずつ処方されていた場合、全部で10種類以上の薬剤を服用する様にいわれている症例も珍しくはなく、この様な症例をこれからどうしていくかは医療内容、医療制度、医療経済面などからみて重要な課題といえる。

■ メノポーズカウンセラー

 更年期障害の治療のみならず、更年期から生涯にかけてのヘルスケアとなると、その様な概念のほとんどないわが国では、医療の現場ではほとんど実行されていない。
 更年期の医療は急性疾患、悪性腫瘍の様に直ちに処置しなければならないものもあるが、予防医学的な内容も大きな比重が置かれている。骨粗鬆症、心臓血管系疾患、代謝性疾患、物忘れなどに対し、50歳代からの適切なヘルスケアが60歳、70歳以降のQOLに大きな影響を与えることがわかっている。
 更年期障害に対しては単に薬物投与だけが治療ではなく、原因に即した対応が必要であることを理解してもらい、一緒に考える。40歳代、50歳代の生活習慣への配慮の重要性を理解してもらい、個人個人にあった食事や運動の具体的な方法を一緒に考えるなど、メノポーズカウンセラーに期待されていることは多い。
 40~60歳代のわが国の女性は臓器別医療が中心といえる。しかし、更年期は全体から各々の症状を考えることが必要であり、老年期への適切な対策をたてる時期であることを国民に知ってもらうことは非常に重要といえる。この概念の普及にもメノポーズカウンセラーは役立つであろう。
 団塊の世代は2007年より続々と還暦を迎え、わが国も本格的な高齢社会に入ってきている。この時代を健康面から上手にすごすには、まずその状況(医学的な事実も含む)を理解し、予防医学を中心とした全身的な医学の導入をはかることが必須であろう。

■ 医学は健康に過ごすことを支援する為に存在する、病気の治療のみに存在するわけではない

 最近、検診事業が盛んになり、何かが再検となり、経過観察となる人達も多くなってきている。また各科の専門領域から疾患又は症状に関してのいろいろな定義が提案され、疾患予備群のような人達も増えつつある。いわゆる生活習慣病が代表的なものであるが、高血圧症、高脂血症、糖尿病などについても基準は常に変化している。メタボリックシンドローム、うつは心のかぜなども一般の人達の啓発には有効な言葉であり、流行ともいえる。
 医学的な各専門領域が垣根を低くして、疾患に対する抵抗感を減らしていくことは、国民にとってプラスかというと必ずしもそうともいえない面もある。確かに疾患に対する予防医学的な面ではプラスであろうが、バリアーを低くして早くから軽度の治療をはじめた場合はマイナス面も多い。例えば、医療費の増加、生活面への制限による影響などはマイナスといえる。更年期女性においては高脂血症、高血圧症、うつ症状などに対する治療はわが国においては、薬物投与に踏み切るのが早すぎる傾向があるともいわれている。日常生活の見直しが先決である。
 各々の医学専門領域で疾患に対するバリアーを低くして患者予備群、又は患者数を増加させた場合、国民からみれば、病人が増加することになり、これは大いなるマイナスといえる。現在は、疾患に対する抵抗感をなくす(又は関心をもってもらう)ためにもバリアーを低くする傾向がある。これは本当に必要なことであるか本研究会としては総合的な面からプラスマイナスを評価し、適切な情報を提供していくことが期待されている。

■ 医療費の増加率を抑えることは不幸か

 高齢社会を迎え、わが国の総医療費増加を抑えることが話題になってきている。表面的には、医療費を抑えることは即ちサービスの低下ととらえ、なるべく抑えない様にというのが財務省を除いたすべての人達の意見のようであるが、これは大きな問題を含んでいる。
 まず大前提として、医療はすべて正しい治療方針で適切に実施され、有効であるとの前提に立って議論がすすめられていることがある。しかし、老人が山ほど薬を投与されていたり、更年期女性がいろいろな不定愁訴で3~4科の病院を受診し、すっかり病人のようになっていたが、ある事情で病院にも行けなくなり、薬も服用できなくなった。しばらくたって、気がついたら以前より病人らしくなっていたなどの話はよく聞くことである。
 即ち無駄、又は適切でない医療が行なわれている可能性を示唆しているものであり、この様な場合は医療をしない方が患者にとってはよいわけである。
 現在の医療費は実施したことに対して支払われており、医療の必要性、医療の結果、医療の質までは問われてはいない。医療の必要性、医療の質などは医療関係者でないと評価できるものではなく、現在これらの点がまったく不問にされているわが国の医療の現状は、考え方によってはかなり異常な世界ともいえる。
 一つを例にとってみたが、適切な医療とは金額で決めることはできないことが理解できたと思う。

 これからの更年期と加齢のヘルスケアについて、思いつくままにいくつか述べてきたが、これからの高齢社会を迎え、本研究会の果たす役割はますます大きいものがあろうと考えている。

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